OTDR の動作原理と特徴
OTDR 測定の精度と実用性は、これに先立つ科学技術なしには考えられません。
本ツールは、光通信ネットワークの特性評価、トラブルシューティング、保守に使用される光ファイバー機器です。OTDR 測定は、光ファイバーを伝播するパルスレーザー光を送信して解析することにより実施します。レーザー光は光ファイバーケーブルリンクの一端から送り込まれるため、測定は単向性になります。
OTDR は、光源に向かって反射または散乱された結果として生じる光特性から得られる情報を利用することにより光レーダーシステムとして働き、接合部、接続部、不良個所など、場所の位置と状況に関する詳細情報をユーザーに提供します。
当社の OTDR 選択ツールを使用して、最適な OTDR を見つけてください。
OTDR 測定の精度と実用性は、これに先立つ科学技術なしには考えられません。この測定器の背後にある物理学を理解すると、OTDR の動作原理について非常に貴重な知見が得られます。
電子を励起すると特有の波形を放出する可能性があることをアルバート・アインシュタインが理論立てた際、最終的に 1960 年の世界初のレーザー実用化につながる可能性の種が生まれました。当時、その用途として光ファイバーを使用する世界的通信網は想定されていなかったでしょうが、この技術は今や 21 世紀における通信接続の代名詞となりました。
OTDR テスターの発展において、長年にわたり数々の画期的な発見が活用されてきました。
OTDR 記号の意味
OTDR には、レーザーダイオード光源、光ダイオード検出器、高精度タイミング (またはタイムベース) 回路が 1 つずつ含まれます。レーザーは、パルス状の光を特定の周波数で放射します。このパルス光は測定対象のファイバーに沿って伝播し、ファイバー区間を伝わる過程で送出光は反射/屈折または散乱され、ファイバーを逆戻りして OTDR の光検出器に向かいます。この戻り光が持つ強度と検出器に戻るまでの時間から、ファイバーのリンクに生じているイベントの損失値 (挿入および反射)、種類、位置がわかります。
レーザー光が光検出器に戻る過程で、次のような作用が働きます:
レイリー散乱および後方散乱
20 世紀の物理学者は、「なぜ空は青いのか」というような基本的な疑問の解明に時間を注ぎ込んでいました。この疑問に対する答えは、今日では レイリー散乱として知られるもので、1904 年にレイリー卿により発見されました。大気中で光量子が微粒子により散乱した際、その結果として地上に届く可視光の大部分がスペクトルの青色側になります。これは、青色光が赤色光よりも散乱しやすいためです。
レイリー散乱の予測可能な性質は、OTDR 技術において基本的な動作原理として活用されてきました。検出器に向けて後方散乱された光源のエネルギー量から、光ファイバーのリンクにおける減衰および信号 (または光) 損失の確かな数値がわかります。
フレネル反射
光物理学者のオーギュスタン・ジャン・フレネルにより特性が明らかにされた光反射の性質はレイリーの発見に先立つものでしたが、OTDR の動作原理の開発には等しく重要なものでした。
フレネルは、反射率が元の光源波の振幅に対する反射光波の振幅の比率になることを発見しました。また、2 つの材質の境界面では、反射率が各材質の屈折率に基づいて予測可能であることに気付きました。
フレネル反射は、光学的に透過可能で異なる屈折率を持つ 2 つの材質の境界面で光が反射する際に起こります。この境界面は、終端されていないか、切断したファイバー端の接合部 (コネクターまたは機械的接続部) で形成される可能性があります。
光ファイバーのリンクには接合部、切断部、接続部、終端部など数多くの関心事象が存在し、そのいずれもがガラスと空気など特定材質の交差を表すため、フレネル反射の方程式はこうしたイベントの種類、位置、強度の判定に利用できます。
吸収
光ファイバーの性能に欠かせない特性としてもうひとつ、ファイバーの吸収が挙げられます。その名前が示すとおり、ファイバーコア全体の内部不純物により、本来の光強度のうち数パーセントが吸収されます。ファイバーの清浄度が高いほど、吸収が減ります。これは、高品質材質では信号 (または光) 損失が少なくなることを意味します。
吸収を引き起こす要素は本質的に反射性ではないため、フレネル反射測定では検出できません。その代わり、光源に戻る光は部分的に入射光に吸収されるため、吸収の効果は後方散乱効果を介してキャプチャされます。
OTDR 測定が継承する有用性は、他では目にすることが不可能な光ファイバーケーブルの状態を診断できる点にあります。これは、リンク内に不具合を起こす可能性がある接合部や接続部を数多く含む場合に重要です。
ファイバー経路内において、特定の位置で想定以上の損失が生じている状態が見られる場合、光の反射減衰量 (ORL) および反射率の診断に利用できます。後方散乱の合計値がファイバー減衰量の合計値の目安となるため、この値を見積もることもできます。
これと同じ考え方が距離測定の計算に利用され、修理、トラブルシューティング、保守の必要性が生じた場合に非常に有用となります。ファイバーのリンク終端部またはファイバーの切断部では物質媒体が (ガラスから空気に) 変わることもあり、フレネル反射により検出可能です。分析結果に加えてファイバーの全長のほか、障害個所、接合部、接続部までの距離が画像表示により判定できます。
OTDR の種類
OTDR 測定の機能的有用性が増すにつれ、測定の速度、精度、レポート生成、保存機能の向上に対する要求増と相まって、提供される製品展開も多岐に渡っています。主要な製品カテゴリーは、卓上型と携帯型の 2 つです。卓上型 OTDR は基本的に AC 電源を備えた機能豊富な測定器である一方、携帯型または小型 OTDR は一般的に屋外利用を目的とし、軽量でバッテリーで動作する装置です。
こうした基本的な使い分けのほか、使用目的に応じて OTDR で利用する機能やオプションを慎重に検討する必要があります。重要な検討項目のひとつが、測定するファイバーの種類 (マルチモード、シングルモードまたは両方) です。このほかには、測定するファイバー長が挙げられます。長距離回線アプリケーション用に設計された製品は、一般的に高いダイナミックレンジ機能を持ちます。これは、FTTA など短い光ファイバーリンクの測定では必要とされません。
使い勝手を良くする機能も製品ごとに異なります。これもまた、製品選定において OTDR の使用用途が最も重要な要素となる理由のひとつです (OTDR 選定の重要要素)。例えば、軽量の製品は静的試験では必要ないかもしれませんが、エンジニアが移動通信用鉄塔に登ったり、その他の活動的状況で作業していたりする中で測定を実施する場合、重量のほか、バッテリー寿命や製品筐体の高耐久化などの特徴は一層重要になります。
OTDR 測定の用途が多岐に渡るため、目下の作業に対してパラメーターを正しく設定することは、正確な測定結果を保証することにつながります。自動測定機能の利用はある種の測定では有用な場合もありますが、光ファイバー経路の長さ、種類、複雑性の変化を考慮してパラメーターを手動で設定することを引き続き推奨します。ファイバー経路を考慮に入れて正しいパラメーターを設定したら、次に同じ状況または類似の状況で測定を実施する場合に、こうした OTDR 測定の設定は測定器のメモリーから呼び出すことができます。
パルス幅
調整可能なパルス幅を設定して、ファイバーのリンクに送出するパルスの持続時間を決定します。短いパルス幅は、通常は短いケーブル長に対して選択します。これはエネルギー出力を最小化しつつ、分解能を最大化できるためです。短いパルス幅は、OTDR の近傍にあるケーブル区間の診断で特に有用です。さらに、短いパルス幅ではデッドゾーンも短くなるため、接続部または接合部の近傍におけるイベント検出能力が向上します。パルス幅を長くとる設定は、長いケーブル経路を測定する際に利用する場合があります。これは OTDR から距離がある状況では、十分な後方散乱を生み出すためにより多くの光エネルギーが必要となるためです。
デッドゾーン
ファイバーのリンク内のインターフェイス反射率が高いために OTDR 検出器が飽和状態になる場合、OTDR の復旧時間はイベントからの距離に変換されます。これはデッドゾーンとして知られるもので、基本的にデータが入手不可能となるケーブル区間を指します。フレネル反射を強く引き起こす空隙、接合不良、(コネクターまたはファイバー端の) 平らなファイバー端面、その他のインシデントが、一般的にデッドゾーンの原因になります。
距離レンジ
OTDR の距離レンジ設定は、画面上に表示されるケーブル総量の表示レンジを制御します。また、各パルスは次のパルスが送出される前に検出器まで戻る必要があるため、ここでパルス送出の速度も定義します。
このパラメーターを適切に設定するには、光ファイバーのリンクに関する正確な情報管理が必要となります。OTDR の距離レンジが事前に設定されている場合、最大ファイバー長よりも長い設定の中で最小値を選択するようにします。例えば、測定器の設定値に 10、100、200、500 キロメートルがあり、実際のファイバーのリンクが 150 キロメートルの場合、200 キロメートルの設定を選択します。
平均時間
一般的に、正確な測定値は同じ試験を複数回繰り返し、平均をとることで得られます。これと同じことは、OTDR 測定にも当てはまります。同じ試験をより多く繰り返して平均化時間を長くすると、キャプチャに時間はかかりますが、良好な信号対雑音比をもつ測定値が得られます。精度と雑音がそれほどクリティカルではない状況では、平均化機能のない「リアルタイム測定」で十分な場合があります。しかし、距離と損失のデータができる限り正確である必要がある状況では、当然ながらより長い平均化時間が必要とされるでしょう。